トーネット(Thonet)
ベントウッド(Bentwood)とは「曲げ木」のことを指します。この曲げ木の技術を発明したのがミヒャエル・トーネットです。
彼の名は知らなくても、彼が生み出した曲木の椅子を見たことのない人はいないに違いないでしょう。
はじめてのコンシューマーチェアーと評された「タイプNo.14」は、トーネットを代表するモデルで、1859年の発売から140年以上たった現在までに2億脚近くが生産されたと言われ、今なお世界中でロングセラーとなっている名作です。
彼は、木材に熱と水蒸気を与え柔らかくしてから鉄製の型(モールド)にはめ込み万力で固定し乾燥させる、といった曲木加工法を発明しました。
1849年オーストリアのウイーンにあるカフェ「ダウム」から依頼されたタイプNo.4(通称/ダウムの椅子)を皮切りに、1851年開催のロンドン万博で銅賞を受賞するとトーネットの名声はさらに高まり一躍世界へと広まっていきました。
そして曲木家具はヨーロッパのみならず、アフリカやアジアにまで販路を拡大していきます。
1856年の家具を工業生産する世界初の工場を設立。
ノックダウン方式の採用による、分解輸送、保管効率の向上、共有パーツの導入、分業による作業時間の短縮、ギルドに頼らない労働力の確保等を実現。
6ヶ国語100ページものカタログによる販売、ポスターによる宣伝、リピート販売、品評会や博覧会への出品などの広告宣伝活動。
材料自生地での生産、水車動力の導入、治具や工具や機械の考案など・・・。
まさに様々なアイデアで、既存の椅子の世界を革命的に変えたのもトーネットでした。
現代の工業生産にも通ずるような彼の手法は、その後の椅子のデザインに計り知れないほどの影響を及ぼしました。
19世紀半ばまで椅子は“権力の象徴としての家具”の要素が強い時代が続いていました。
ミヒャエル・トーネットは、そのような時代中で椅子を初めて量産し、一般大衆のものとした最大の功績者とも言えるでしょう。
一般市民に求められた“生活のなかの芸術”という思いに充分応えたのです。
1870年に曲木技術の特許が切れ曲木技術が解禁されると、様々なメーカーから多様な曲木家具が作られました。
1851年に「トーネット兄弟会社」を設立してから1871年に亡くなるまでに、トーネット社だけでも5000近いスタイルの家具が418万個以上生産されたと言います。
かのピカソもトーネットのロッキングチェアーを愛用しました。
そして、こんにちもトーネット社をはじめ様々なメーカーから曲木家具が生み出されています。
曲木で作った椅子は価格が安く、軽く持ち運びやすく、丈夫で、座り心地も良く、そしてシンプル。
そういった要因からカフェを中心に人々の生活に広く解放されていきました。
実用性から生まれたミニマムなデザインは、古くささを感じさせません。
時空を超えて人々に愛され続けてきたものは、インテリアに落ち着きを与え居心地のよい空間を演出してくれることでしょう。