セレモニーボックス

イフガオ族(Ifugao)

フィリピン・ルソン島北部のコルディレラ山脈に暮らす少数山岳農耕民族。
世界遺産のバナウェのライステラス(棚田)は、約2000年前にイフガオ族の手により造成されました。
山麓から山頂まで棚田が覆い尽くす壮大な光景から「天国への階段」と謳われる棚田群は、 イフガオ族が世代を受け継ぎながら、山肌にこつこつと石垣や泥土を築き造りあげてきました。
総面積はおよそ2万ヘクタール、石垣の総長は2万Kmに及び地球半周の距離に相当します。

イフガオ族の文化は、精霊信仰や自然崇拝といったアニミズム(animism)に基づく伝統に組み込まれています。
万物に宿る精霊や祖霊と交流し、様々な儀式で祈りを捧げることにより、豊かな実りと平穏な暮らしが授かると信じます。
バナウェの棚田も神への捧げものとして造られたと言われます。こういった精霊信仰や儀式は棚田とともに幾世代にも渡って受け継がれてきました。
そのため、伝統的なアニミズム的性質を有する独特な木像彫刻が定着しました。

セレモニーボックス(Punamhan)

イフガオ族の文化では様々な儀式が一年を通して執り行われます。

Punamham(プナムハン)という神獣が施されたセレモニアルボックスには、収穫儀式などで献上される穀物などが納められます。
ムンバキ(mumbaki)と呼ばれる巫医によって奉られ、Punamhamは天に向かうと信じられています。

ムンバキとは精霊と交信することができるシャーマン(shaman)であり、祭祀のほかにも病気の治療やまじないや呪術も行います。
米の耕作に密接な数多くの儀式のほかにも、神々への賛美や怒りを鎮めるための儀式、冠婚や葬祭、誕生や成人の儀式などあらゆる祭儀を司ります。

1000を越える神々がいるというイフガオ族のアニミズム(animism)において、シャーマンであるムンバキはとても重要な役割を担っていました。
ムンバキによって執り行われる多様な儀式では、同じく多様な儀典用具が用いられます。

結婚後最初の稲の収穫が終わったあと、バヤ(baya)と呼ばれる豚供養の儀式が行われます。
儀式用の蓋付き箱インアマ(inqama)を作り、ムンバキは稲の収穫儀式ごとにこのインアマにベテル椰子の実を一つ入れていきます。
箱に入れられた実の数で、その夫婦が何回の稲の収穫を行ったかという歴史が記録されるのです。

キリスト教が受容される以前のフィリピンにおいては、主に女性が宗教上の機能を果たすとされていたので、 主に男性が宗教的祭司を担うイフガオ族に関しては、男女の逆転した現象を見ることができ興味深いです。
しかし、イフガオの女性が宗教的祭司の役割を担わないというわけではなく、微弱ではありますが女性が祭司となり儀礼を主導する場合も見られます。 最も顕著な例がフッドフッド詠唱（hudhud Chanted epics）でしょうか。 世界無形文化遺産にもなった、イフガオ族のフッドフッド詠歌の語りの中心は女性が担います。 200以上もの物語(曲)で構成される叙事歌は、すべて詠唱され終わるまで数日を要します。 7世紀以前から口頭伝承されてきたフッドフッド詠歌には、祖先の物語や伝統習慣、稲作の大切さが表現されており、耕作や葬儀の限られた時にだけ詠唱されます。

このように、イフガオ族は他の山地民族に比べて著しく複雑かつ固有的な民俗を遂げてきました。
独特な言語を用い、女(母)系制でありながら双系的親族関係を基礎にした親族名称をとる分散居住形態(核世帯)や、 多義的かつ開放的な社会位相や、夫婦別財の観念や養取慣行など、イフガオ族の社会階層や儀礼大系は独自的なものとなっています。

そういった独自的な民族から生まれた祭具もまた独創的なデザインとなっています。